書きそびれていたことがあった。
初日にあわせて、台風が直撃したのだった。
仕込みの頃から降り続く雨に「午後から雨になるでしょう、つぅかもう降ってるし......」というような会話を四度ほど耳にした。
さもありなん。
初日の後、台風は足早に東京を過ぎ去っていった。
二日目マチネの頃には、台風一過ですっかり快晴。
これをば個人的に『てるる、遅ればせながらの効果覿面』と呼ぶ。
ユタ氏作『てるる』が台風を追い払った正義のヒーローだとするならば、台風を呼び寄せた悪の親玉は果たしていったい誰なのであろうか。
疑問だけが残る。
この日は昼夜の二回、公演があった。
マチネ。
とある焼酎バーのマスターが観劇にきてくれた。
感想を伺おうと思ったら、「台風で浸水しちゃって店ン中が大変なんだよ、一ヶ月くらい店閉めるから」と衝撃告白を残し、悲痛な面持ちで帰っていった。
そんな大変な時にわざわざ......。
どうか午後から雨になるでしょう、がトラウマになりませんように。
ぼくがやらなければならないこと、はどうだったかというと、相変わらず缶コーヒーを逆さまに設置してしまった、猛省。
ヒロトさん役のヒラヤマさんは、逆さまに置いてあった缶コーヒーをどのように処理したのだろうか、舞台上を見ることができないのでとっても気になる。
ソワレ。
皆が次第に落ち着きを取り戻しつつあった。
演者さんたちを例に出すと、稽古よりも感情の起伏に富み、舞台上で楽しんでいる様が手に取るようにわかった。
ま、薄暗闇でただ台詞を聴いていただけなんだけど。
薄暗闇で生活するうち、違いのわかる男になってきたのかもしれない。
ぼくがやらなければならないこと、に関しては初めて大きなミスもなく、ソツなくこなした(と思う)。
やったぜ、と充足感が残った。
あ、そうそう。
昼公演が終わった後、女性(美人)のお客さんが一人引き返してきた。
「なんだなんだ?」と思ったらば「あのう、てるてるぼうずを売っていると聞いたんですが」と言う。
そりゃきっと『てるる』のことですよ、こちらですどうぞどうぞ、と案内した。
台風回避てるる、大人気。