初日。
場当たりゲネプロと駆け抜け、いよいよ初日の本番。
すでに一日の体力の半分以上を消耗しているのであるが、なぜか興奮気味。
ふと周りを見渡すと、高揚した空気が充満している。
きっとそれが初日というものなのだ。
やがて開場時間が迫り、ホームポジションであるところの下袖の奥にうずくまった。
開演30分前にして、こちらはスタンバイOK。
お客さんが続々と入ってきているのがわかる。
初日は満席、完売御礼。
ただ、スタンバイしてしまうと何もできない。
薄暗闇でたった一人、ぽつねんとただ過ごすしかない。
いったいこの時間はなんなのだろうと座禅を組んでみる。
うーん、わからん。
寝っ転がってゴロゴロ悶えてみる。
ますますわからん。
隙間から客席の様子が見えないかなぁ、どんな人々がきているのかなぁ、とパネルの隅っこを凝視してみたが、こっち側から見えているということは向こうからもこっち側が見えているかもしれないということである。
こっち側の明かりが洩れたり、こちらの姿が見えていたら舞台装置上の大問題になる。
だから見えるわけがない。
さすがの舞台監督フジモトさん、細部までぬかりないっす。
そうこうしているうちに、オープニングが始まった。
じっと舞台上を想像しながら、耳を研ぎ澄ませる。
音や僅かな明かりだけで芝居を感じていると『悪意の研究』出演中のヒラヤマさんの声が、稽古時よりも上ずっているのがスルドクわかった。
皆、やはり緊張しているのだ。
初日って緊張するんだぜ、今ならそう胸を張って言える。
なぜなら、ぼくも緊張していたから。
ぼくには五つほどやらなければならないことがある。
その一つ目。
・『悪意の研究』が終わり、暗転になったところで脚立を慎重に......ガンガラガッシャーン!
おもっくそ脚立をひっくり返した。
しかも小道具ごと。
やらなければならないことでもなんでもなく、そんなことしちゃったらまるでイカンことなのである。
ヤッベーどうしようヤッベー、あたふたしながら、なんとかかんとか脚立を置き、その上にさらに水筒と缶コーヒーを設置するという作業を終え、下袖に引っ込んだ。
あとはもう懺悔のオンパレード。
すいませんすいません、神様仏様ヨシナガ様すいません、脚立をこかしてしまってすいません。
そうやって懺悔に夢中になり、やらなければならないことパート2の、『Fool On The Roof』で使用した新聞紙の片付け、をすっぽかした。
最悪だ。
バカバカ俺のバカ。
大事には至らなかったが、この負の連鎖。
穴があったら入りたい、と思ったが、すでに穴蔵のような場所(下袖)にいた。
ほっ。
もうその後の記憶はほとんどない。
あっという間にお芝居は流れていき、カーテンコールまで到達した。
表向きには無事に終演を迎えたように思えるが、実は無事でなかった。
そう声を大にして言いたい。
それが初日ってもんなのだ。