ヒラヤマさんは出演機会が多いので、自然稽古場でも多く顔を合わせる。
無骨な男を感じる男だがしかし、とても優しい。
自分はアンジェラ・アキみたいな眼鏡をかけてへにゃへにゃしているので、かなり尊敬している。
学生の頃、アパートのぼくの隣の部屋にヒラヤマさんと同じく鹿児島出身の友人が住んでいた。
彼は訛りがひどく、基本的に何を喋っているのかわからない。
なんとか意志の疎通を図りつつ、ルールわかんねえっつってんのに無理矢理三人麻雀やらされたり、バカみたいに酒が強いので前後左右縦横斜め不覚になるまで飲み明かしたり。
えらく豪気な男だったので、ヒラヤマさんへのリスペクトと同様に尊敬していた。
ある日、隣の友人は唐突にいなくなった。
もぬけの殻となった彼の部屋。
ぼくの部屋の玄関先には「ありがとう」という書置きと薩摩焼酎の一升瓶が置いてあった。
まだ携帯電話を持っていない時代で、お互いに連絡を取るすべもない。
いったいどこへ行ってしまったのか、悲しいなあ、と思いながら、置いてあった焼酎を毎日ちびちびと舐めるように呑んだ。
ヒラヤマさんの顔を見ると、パブロフの犬が如くその時の焼酎の芋臭さが蘇ってくるのである。
涙。
さて、ヒラヤマさん。
数日前に髪を切り、ますます男に磨きがかかった、と思った。
ところが、どこかから「ダチョーっぺえ」という声が聞こえる。
これを機に彼は酒宴で「ダチョー」と呼ばれるのである。
本人はあまり気にしていないようですが。