午後から雨になるでしょう

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つめたいワイン

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まとわりつく夜の熱気を逃れて、扉のなかへ一歩入るとそこは夢のように冷えた、暗いウェイティングバーである。

ジャズと賑わいの声を背にして、黒いスーツをぴしりと着た若い男が頷いてみせ、インカムに、囁く。いや、囁くというにはやや明瞭過ぎる声だった。

「ただいま、二人組がお待ちです」

二人組て。強盗じゃあないよ。それかデュオなのか、デュオなのかあたしらは?

とは表情に出さずに目を伏せ、ドレスに小さな埃でもみつけたようにそっと指先で払う。

インカムからの声は無論、聞こえない。

ただスーツの若い男が片耳に手をあて、ぶるっと緊張を走らせる姿に、怒声を、見る。

『なに言うとんじゃぼけ。状況伝えろちゅうとんのじゃ。なんでできんのじゃこら』

いや、伝えてはいる、伝えては。

彼が眉を寄せて耳に手をあてているその間にまた扉が開き、年配の紳士が入って来る。

若い男はなんとか作り笑顔を浮かべた。そうしてインカムにあくまで静かに、クールに告げる。

「ただいまお待ちになっているのは、二人組、え、あ、お二人組、と、お一人組様です」

 

落ち着け、きみ。


吉永亜矢 (2009年7月18日 13:41)  カテゴリ:
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