まとわりつく夜の熱気を逃れて、扉のなかへ一歩入るとそこは夢のように冷えた、暗いウェイティングバーである。
ジャズと賑わいの声を背にして、黒いスーツをぴしりと着た若い男が頷いてみせ、インカムに、囁く。いや、囁くというにはやや明瞭過ぎる声だった。
「ただいま、二人組がお待ちです」
二人組て。強盗じゃあないよ。それかデュオなのか、デュオなのかあたしらは?
とは表情に出さずに目を伏せ、ドレスに小さな埃でもみつけたようにそっと指先で払う。
インカムからの声は無論、聞こえない。
ただスーツの若い男が片耳に手をあて、ぶるっと緊張を走らせる姿に、怒声を、見る。
『なに言うとんじゃぼけ。状況伝えろちゅうとんのじゃ。なんでできんのじゃこら』
いや、伝えてはいる、伝えては。
彼が眉を寄せて耳に手をあてているその間にまた扉が開き、年配の紳士が入って来る。
若い男はなんとか作り笑顔を浮かべた。そうしてインカムにあくまで静かに、クールに告げる。
「ただいまお待ちになっているのは、二人組、え、あ、お二人組、と、お一人組様です」
落ち着け、きみ。