午後から雨になるでしょう

ブログ

かつおの塩たたき

かつおの塩たたき.JPG

 

公演準備期間中で毎度のことながら非常に煩雑な日々だ。

自分のやることが多いのはいいが、ひとにお願いごともたくさんして、

いったい誰になにを頼んでいるのか、わからなくなりそうになるくらいだ。

能力のあるひとたちは忙しい。その忙しいひとたちを捕まえて、スミマセンスミマセン、

と、無料で、またはほんのわずかなお礼でお願いごとをする。

「私は泥棒なのだ」と思わずにはいられない。

その泥棒の言うことを、おもしろがって引き受けてくれるひとたちがいる。

ありがたくて、うれしい、けれど、身が縮む。

当然のことではある、しかし、気をつけなければならない。

経験からこういうときに起きることがわかるようになった。

注意してさえいれば、住み慣れた駅のホームへの階段がうまく降りられないことに、

ちゃんと気がつく。歩幅が違っているのだ。

その次には洗面所の蛇口が近く感じるようになり、その次にはキッチンの棚に手が届かなくなり、

食事をとるにもテーブルに手が届かなくなり、床をはいはいするまでに、縮んでしまう。

そうなる前に、自分で意識することが大事だ。

案の状、きのう、美術さんと打ち合わせの後の帰りに、駅の階段でよろめいた。

きたな、と思った瞬間、背後から「きゃ」と小さく悲鳴があがって、

「大丈夫ですか」駆け寄って手を差し伸べてくれた女性がいた。

見ると、色白のくっきりした目のきれいなお嬢さんだ。

悪い癖できれいな女性を見ると心中、だらしなくなり、その滑らかな手に必要以上に

しがみついた。

ぷん、とくちなしの花の香りがする。

「スミマセン、ありがとう」謝りながらも口はどんどん勝手に、

「スミマセン、安い印刷会社をご存知ですか、スミマセン、それか安い弁当屋は。

スミマセン、10月にお暇はないですか、突然スミマセンがもしよかったら、お芝居を

観に来ませんか、それかスミマセンがよかったら受付のお手伝いを」

最後のほうは花の香りのお嬢さんの、靴しか見えなくなった。


吉永亜矢 (2009年6月23日 14:17)  カテゴリ:
<< 前の記事へ  |  次の記事へ >>

最近のブログ記事

アーカイブ